第十二夜 蛇な一日
ビードロは割れて,中から小さな蛇が出てきました.
蛇は四葉の足元を一度,愛しそうに回って,
そして,空へ飛び去って行きました.
「なんだったんだろう.」
「なんだったんでしょうね.」
「蛇ですよ.」
「そいつはヘヴィーだね!」
「・・・」「・・・」「・・・」
「おい,蛇なんてなんでもないぜ.」
「そうだね,なんでもないよね.」
ビードロは割れて,中から小さな蛇が出てきました.
蛇は四葉の足元を一度,愛しそうに回って,
そして,空へ飛び去って行きました.
「なんだったんだろう.」
「なんだったんでしょうね.」
「蛇ですよ.」
「そいつはヘヴィーだね!」
「・・・」「・・・」「・・・」
「おい,蛇なんてなんでもないぜ.」
「そうだね,なんでもないよね.」
「ケンカ両成敗.」
「どうして俺がこんな目に・・・」
槍もつ者も牙もつ者も,不意打ちにはかないませんでした.
「ついでに飯抜き.」
「グーッ(火を吹いたらおなか空っぽ!)」
うなった拍子に,竜の喉から闇色のビードロが飛び出しました.
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/12/30)
結局のところ,四葉探索隊はラッパの目と耳が頼りでした.
山中から四葉の声が聞こえたという彼の言葉に従ってみると,
そこは竜の住む洞窟でした.
「やいやい,四葉さんをどこへやった.
四葉さんに何かあったらただじゃおかねぇぞ!」
「ゴーーーッ.」
「この,火ぃ吹きやがったな!」
「ゴーーーッ.」
「親分ひとりで大丈夫ですかね.」
「こんなときのためのアイツだろ,ほっとけ.
それよりちゃんと見ててくれよ.」
「はい,えーと,あっ,あの竜,泣いてますよ?」
「ゴーーーッ.(わたしが四葉よ!)」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/8/9)
旦那さんの案内で,四葉は帰途につきました.
「こういっちゃあなんですが,よく受け継いでくださいましたね.」
「だって,王様がとっても可哀想に見えたの.」
「そうですかい.しかし,王様っていうのは見た目が商売ですからね.」
「どういうことですか.」
「それはときどき綺麗ですがね,
きっと姫様のお役には立たない,っていう意味ですよ.」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/7/17, 2003/12/29修正)
「わたし,王様になんてなれやしないわ.」
「王様になるのは,けして難しいことではありません.
ですが,貴方にしか出来ないことなのです.
四葉さまは四葉さまのままでいてください.
我らとしてはただ,
貴方がこの鼠の宝をお持ちになればそれでよいのです.」
そう言って,王は闇色のビードロを投げました.
「これは天輪儀.裏表ある星影の,裏面だけを張り合わせた手鞠です.」
天輪儀のつるつるとした表面は闇を映し出して,
日や月が描く輪をさかさまに,光のない輪を幾重にも放ちます.
輪がぐるぐると回るのを見ていると,一度だけ天輪儀の中が透き通って,
いつもの夜空の星影が,そこに瞬いているような気がしました.
「なにぶん地の底なので垢抜けないものですが,
きっと貴方の旅のお役に立ちます.
さあ,これを持ってお帰りください.」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/5/6)
ネノクニの王は,四葉がこれまで出会った中で最もちいさな鼠でした.
王は重い病に伏せっており,手足は痩せ,お腹だけが風船のように膨れ,
このかわいそうな鼠が王様であることは,
立派な王冠をかぶっているお陰でかろうじて想像することができました.
「四葉さま,貴方をさらって来たことには深いわけがあるのです.
私の体はこんなに小さくなって,もうこの国はおしまいです.
ここは世界の因るところ,夜はここより生まれます.
ここはおしまいの国.一日の終わりの国,明日の始まりの国.
おしまいの国がおしまいになれば,この世の本当のおしまいです.
だからどうか,貴方がネノクニを受け継いでください.」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/5/5)
今日は一本釣りの旦那が何本も使う大仕掛けでした.
獲物は人間の女の子です.
遠い地層の彼方で釣り糸に力がかかると,
子分どもが勢いよく糸を曳きました.
落ちてきたのはたいそう可愛らしいお姫様でした.
泣いているお姫様の顔を,旦那はやわらかいお腹で拭いてやりながら言いました.
「怖かったかもしれませんが,お怪我はないでしょう?
あっしは一本釣りの旦那.危険な投網は使いません.」
四葉が自分の体を調べると,たしかにどこにも痛いところはありませんでした.
「どうもありがとう,旦那さん.」
「いやいや,今日のあっしは姫様をさらうのが仕事.お礼を言っちゃいけません.」
「それじゃあ,ここはどこですか.」
「世界の根元の大鼠,その子の創ったネノネノクニ.
根の子の子も寝る子の刻の国,つづめてネノクニと申します.」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/4/12)
目が覚めたとき,四葉は暗い穴の中を落ちていました.
釣り糸を曳くのは船鼠の群れです.
不始末をしたデッキのようにぬめりけのある斜面を
うねったりひねったり恐ろしい速度で駆け抜けるものですから,
四葉のほうは命がいくつあっても足りませんでした.
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/4/10)
釣り針は手紙を残してゆきました.記された地霊文字は次のように読めます.
”四葉さまをわれらの姫としてお迎えした.
ネノクニの王”
「お前ら,ふざけとる場合か.
ネノクニだかウシノクニだか知らねぇが,さっさと助けにゆくぞ.」
オオヤリはああ見えて,ひと突きで牛も倒せるのです.
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/4/8)
コヤリだけは四葉の様子を遠くからこっそりと見守っていました.
「四葉さんっ,」
しかし,慌てて駆けつけても,もう間に合いませんでした.
「親分,親分,大変です!」
(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/4/6)
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